日時;2009年2月7日(土)13:00´〜17:00´
場所;東京芸術劇場中会議室
参加人員;43名、懇親会17名
内容;会員からの発表3テーマ、講演1テーマ
    会員からの発表
   (1) 與語基弘さん
    「今求められる気象界の課題とそれへの取り組み状況」

   (2) 藤井聡さん
   「東京の雪型についての考察」

   (3) 竹田宜人さん
   「災害情報で市民は行動するか? その1」

   講 演
   「中世の温暖期と近世の小氷期における太陽活動と気候変動」[pdf]
   講師;東京大学 宇宙線研究所 特任助教 宮原 ひろ子様

報告
(1) 與語基弘さん
   「今求められる気象界の課題とそれへの取り組み状況」について
国の重点研究課題として
@温暖化の影響
A予測の精度向上
B水循環の変動
等色々あり大学、気象庁、文科省、国交省、研究機関等で研究が進められています。
どのようなことが行われているのか、パワーポイントで見せていただきました。
この場で紹介するのは大変なのでインターネットで下記にアクセスすれば見ることが出来ます。
「21世紀気候変動予測革新プログラム」
「国土交通省河川局」のホームページで″河川局の気候変化への取り組み″を開く
以上参考にして下さい。
この研究はIPCC5への展開が行われるとのことです。


(2) 藤井聡さん
   「東京の雪型についての考察」
よく言われている東京の降雪で、南岸低気圧により東京に雪が降るかどうか
低気圧が近すぎると雨、遠すぎると曇り、その中間で条件により雪
(八丈島あたりを通過して850hpaが-6℃以下?)ということだけではないということです。
過去50年位の豪雪(東京都市部で豪雪基準)の写真とそのときの天気図をみせていただきました。
また最近の降雪時のアメダスデータからそのときの状況を解説していただきました。
解説内容
@降雪前に850hpa以下の下層で急激に気温が低下する(850hpaより下層の方が気温が低い)
A風向が北〜北西になっている
B銚子では東寄りの風向で気温が低下していない
C南岸低気圧はまだ西の方の位置している場合もある
藤井さんいわく仙台の状況を調べる必要があるとのことです。
藤井さんが紹介してくれた資料からいろいろと考えることはできます。
しかしなんといっても古い資料の収集、中にはご本人が画いた天気図もあり
また当時実際にものさしで積雪量をはかり気象庁の発表と比較するなど
データ収集の屈力に感服しました。


(3) 竹田宜人さん
   「災害情報で市民は行動するか? その1」
レジュメをそのまま掲載します。
検討する上で、考えなければいけないこと
・災害のリスクとは
・災害情報学とは
・災害情報の課題(送り手、受け手)
・気象災害におけるリスクコミュニケーション
・情報は使われてなんぼ

問題提起
@だれが、どのように、どんな方法で、市民に伝えるのだろうか
Aその情報を市民はどのように判断し、どのような行動に移せばよいのだろうか
B多くのことが決まっていない。気象予報士はどうすればよいのだろう

ここで
「災害リスク」とは
自然現象;地象(地震・火山)、気象、海象はどこにでも存在する
これが人間社会に悪影響をおよぼせば自然災害となる(人災も含む)
自然現象と人間社会の間には環境問題もある
私たちは常に災害リスクをかかえているわけです。

「災害情報学」とは
こういう学問があることを始めて知りました。出版物もあります。
レジュメの概要を掲載します。
「災害情報学とは、防災および減災のために必要とされる情報について
その内容・送り手・受け手・伝達方法・情報伝達システム等について研究するものです。」
「その研究対象は平常時から緊急時・復旧時まで、ソフトからハードに至るまで、
さらに行政機関から報道機関、事業所・個人まで、すべてを包含した社会全体としています。」
というものです。

「災害情報の課題(送り手、受け手)」
送り手
情報の精度、観測技術は確実に進歩しています。
受け手
「正常化の偏見」正常性のバイアス
※ここで使われているバイアスとは気象庁が発表した内容を聞き手が判断するとき
  すなおに受け入れず自分の都合のよいように判断基準を上や下にずらすことと思って下さい。
例としてH10年那須豪雨で被災された方々への調査(東大社会情報研究所)で
「避難が必要な災害ではないと思った」・・・61%
「まさか自分の家まで危険になるとは思わなかった」・・・45%
まさにバイアスがかかった判断です。
・パニック神話(送り手、受け手)
 恐ろしい情報を流すとパニックが起こるのではないか?
 パニック神話は存在しないと考えてよいとのことです。→人間はちゃんと行動する
・集団行動(受け手)
 みんなでまとまって動く場合のよしあし
 「赤信号みんなで渡れば怖くない」という心理です。

「気象災害におけるリスクコミュニケーション」
「情報は使われてなんぼ」
この2点まとめて記載します。
 @情報を持つ物(気象庁、事業者など)
 A指示する者、情報を持つ者(自治体)
 B情報を伝達する者(メディア)
 C情報を受ける者、行動する者、リスク対象者(市民)
これらが有機的につながり作用しなければなりません。
前にも記載しましたが、予報および観測技術は向上し情報内容も進歩しています。
しかし情報をうける市民への伝達(内容の理解度も含む)や行動への喚起がうまく作用してません。

ここまで発表された後、本例会に参加いただいた
東海支部の植松さん
西部支部の弘中さん
お二方からコメントをいただくことになりました。
植松さんはNPO法人を立ち上げ地元で活動されてます。
尚、前日の2月6日災害危機管理ICTシンポジウム2009でご講演されました。
詳細は [forum: 45188] 【素晴らしい講演でした。】を参照して下さい。
弘中さんは日本気象予報士会の理事で防災に関してよくforumに投稿されているので
みなさんよくご存知の方です。
しかし残念ながら弘中さんのコメントは時間切れで聞くことが出来ませんでした。

植松さんのコメント
@住民への伝達のところで気象庁が発表した内容に地域の特徴(局地性)もふまえた
  情報が必要である。
A気象庁が発表した内容を住民が正確に判断出来る(バイアスがかからないことだとおもいます)
  ように翻訳する必要がある。
B上記@,Aを行う為に地域に根付いた組織が必要である。
  ※これは気象庁や行政では手のとどかない分野である為 
    地元の気象予報士にゆだねられる。
  ※東海支部ではいろいろと活動している。 

又、災害危機管理ICTシンポジウム2009で
「常設の防災情報センター設立」を強くピーアールしたそうです。

最後に竹田さんから東京支部でも同じような行動をおこしてみてはという提案がありました。


   講 演
   「中世の温暖期と近世の小氷期における太陽活動と気候変動」
   講師;東京大学 宇宙線研究所 特任助教 宮原 ひろ子様

約1時間強ハイペースで講演されました。
話の順番は前後しますが内容は以下のとうりです。(概略です)

年輪に含まれる炭素14の量とその当時の気温とのマッチングがよい。
→@ 炭素14の量は太陽活動の影響を受ける。
→A 炭素14の量を測定すればその当時の太陽活動の状況が分かる。
→B 太陽活動の周期性が分かれば地球の気候の推測も可能になる。

@とAに関して
イ, 太陽活動が活発なとき(黒点が多いとき)は、太陽からの放射線量が増える。
ロ, 太陽の放射線は宇宙線に対してバリヤを張る(遮蔽効果がある)。
ハ, よって地球にとどく宇宙線量が減少する。
ニ, 炭素14の生成と年輪への含有
   高エネルギー宇宙線(陽子)が大気分子にあたる。
              ↓
   大気分子からはじきだされた中性子が窒素原子核にあたる。
              ↓
   窒素原子核から陽子が2ケはじきだされ炭素14になる。
   (窒素の質量は14,炭素は12)
              ↓
   こうしてできた炭素14は酸素と反応し二酸化炭素になる。
              ↓
   この二酸化炭素が対流圏でふらふらしているうち、なかには地表に到達するものもある。
              ↓
   この二酸化炭素が光合成により植物に取り込まれる。
ホ, 太陽活動が活発なときは宇宙線が少ないため炭素14が少ない。(温暖な時期)

Bに関して
イ, 太陽にはいろいろな周期(例えば27day・・・太陽の自転周期)がある。
ロ, 太陽の活発(黒点多)、不活発(黒点少)は11年周期とよばれている。
ハ, 11年周期といっても(9年〜14年)位の幅がある。
ニ, 11年周期の短い方が太陽活動は活発。
ホ, 11年周期を倍にした22年周期というのがあって、太陽の磁極の向きがかわる。
ヘ, 太陽の磁極の向きによりバリヤの範囲、位置が異なる。
それによっても地球に影響をおよぼす宇宙線量は変化する。
ト, 太陽活動の極小の場合、発生直前に11年周期が〜13年程度に伸びる。
チ, 太陽物理学でまだ分からないことが多くある。
リ, 太陽活動を予測する物理モデルはまだ確立されてない。


現在はどうかそして未来は
@データの問題として
イ, 気候変動による炭素循環の変化は考慮されてない。
ロ, 人為起源による二酸化炭素の放出による炭素14の希釈効果が完全に補正できない。
A現在の状況
イ, 黒点が全く無い
ロ, 過去50年間で最低レベルの太陽風(science..nasa 09.23.2008)
ハ, 1996年の最低の極小期からすでに12年が経過している。
→それでは今後太陽活動は弱まるのか?
→「もう1周期くらい様子を見ないとなんともいえない。」とのこと。
ホ, 次の太陽活動周期における最大黒点数の予測は研究者によってまちまち。


炭素14の増加と温暖化の関連
炭素14の増加=宇宙線の増加=イオン化率の変化
イオン化率の変化がエアロゾルの生成に影響をあたえているかもしれない。
但し、このように宇宙線が気候を左右するメカニズムは未だ解明されてない。
スイスCERNで基礎実験(SKY、CLOUD実験)が行われている。
国内でも名古屋大、甲南大などのよりエアロゾル生成実験がスタートした。


その他にも
@月を10m位掘って温度を測定すれば約500年前の月面における日射量の情報が得られる。
A年輪中の酸素14の測定で過去の日本の相対湿度(梅雨前線の活発度)が復元できる。
などなどいろいろな話がありました。

表題の「中世の温暖期と近世の小氷期における太陽活動と気候変動」とは関係ないような報告ですが
講演では測定結果と過去の気温との比較でかずかずの例を紹介していいただきました。
 

 
日本気象予報士会東京支部 第41回会合
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(文:勝 行雄会員)