2000年 東京支部会合 概要

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     ◆2000年(H12)2月5日 第10回東京支部会合

<概要>
 東京支部の「第10回記念会合」は土曜日の午後、会合31人、懇親会23人の方にご出席頂き、盛大に行なわれました。
<話題提供1>
ホームページアクセス数に見る気象情報のニーズ

 森田陸四郎 会員
 気象ページと温泉ページのホームページへのアクセスを、個人、企業、官庁、その他からに分けて、時刻、曜日、季節別による特性を分析されました。アクセス数の時間変化が個人や企業によって独特の特性があることや、週末近くなるとアクセスが増える事、またアクセス数が季節変化するなど興味深い話が聞けました。また、台風来襲時におけるアクセス数の変化から、どの時点で気象情報が求められているかの分析や、リンク効果によるアクセス数の増加のお話がありました。
<話題提供2>
フィリピン・ピナツボ山麓紀行

 佐々木陽一 会員
 平成11年末にNGOのボランティアとしてフィリピンに行かれた時の様子を中心に、スライドを交えてお話しいただきました。一年を通じて暑く、雨期と寒気の2季のみの気候や、4,5月が乾期でもっとも気温が上がるため現地では夏休みになるなど、日本とは違った気候が生活にもたらす影響を説明されました。また、1991年に大噴火を起こしたピナツポ火山の被害が、人々の暮らしに大きな影響をもたらしている様子が印象的でした。火山灰で1階部分が埋まってしまった教会の写真や、川幅が広がってしまい橋が架けられずに川底を走る車の写真など、今なお大きな爪痕を残しているのが見て取れました。
<話題提供3>
関東の雪/雨 〜今市での観測から〜

 大門禎広 会員
 平成12年1月17日の事例などから、今市の降雪時における気温や風向の変化の分析をされました。また、そのあとを引き継いで関東地方の降雪の特性について数名の会員から意見交換がなされ、降水が雪になる目安が「(気温+露天温度)/2の値が0℃以下だと雪」「筑波山の気温が−2℃以下だと雪」など実用的な判断の目安が発表されました。最後にMLで話題になっている「沖縄の雪」の映像のビデオが流されました。全員が食い入るように見入る姿が印象的でした。

 

     2000年(H12)4月8日 第11回東京支部会合

<概要>
 第11回東京支部会合は、花見客で賑わう上野の東京文化会館において、37人の方に出席を頂き、盛況のうちに終えることができました。
<話題提供1>
東京の大気汚染の特徴

 松本 学 会員
 東京都の環境大気測定局の観測データを元に、大気汚染物質と気象との関係についてお話しいただきました。二酸化窒素(NO2)とオキシダント(Ox)の濃度が相反していて、紫外線量の多くなる春から夏にかけて、オキシダント濃度が高くなり、逆に秋から冬にかけては二酸化窒素が高くなることや、光化学スモッグの原因物質であるオキシダントと最高気温との相関が高いことなど、大気汚染物質が気象条件によって大きく影響されることが分かりました。
<話題提供2>
フライトシミュレーターの中の気象

 前田陽男 会員
 今回、本年3月25日の気象データを取り込んだ上で行った羽田−新千歳間のシミュレーション飛行の経過を画像で紹介し、実際の天候がフライトシミュレータのなかでどのように表現されたかを検証していただきました。雲がかなりリアルに表現されていたり、オンラインで、その時の気象データ(実際は6時間くらい遅れるとのこと)を取り込んで、シミュレータ上で再現するなど、最新のゲームには驚かされるものがありました。
<話題提供3>
高気温時の降雪 限界と可能性 沖縄に雪は降ったか?

 渡辺保之 会員
 昨年12月20日午後6時40分頃、沖縄県那覇市久茂地で撮影されたビデオ映像を追求された報告です。映像と現地の見取り図から撮影された状況を推測し、人工雪の可能性を考察しました。また、当時の気象状況を天気図や観測原簿、断熱図などからとらえ、自然雪だとするとこの高温下で降る可能性があるかどうかを、過去の事例や、湿度と気温との関係などから考えました。今回も結論は見い出せなかったのですが、雪が雨にかわる過程をより深く知ることが出来ました。
 最後に観測原簿、アメダス資料などは気象庁6階資料閲覧室。天気図は1階天気相談所。文献は1階図書室で閲覧可能であることも報告して頂きました。

 

     2000年(H12)6月10日 第12回東京支部会合

<概要>
 第12回東京支部会合は、関東地方の梅雨入り発表のあった翌日、浅草の台東区民会館において、東京支部史上最高の67人の方に出席を頂き、大盛況のうちに終えることができました。
<話題提供1>
数値予報システムの変更・新しい客観解析手法

 岡本幸三 会員(気象庁数値予報課)
 現在の解析手法である最適内挿法の説明とその欠点、そして今後の解析手法の主流となる変分法(三次元変分法と四次元変分法)について、そして今後導入するに当たっての課題などをお話頂きました。また、今後ますます重要な観測手段となるであろうさまざまな衛星データについて説明 頂きました。
<話題提供2>
気象研究所非静力学モデルと数値実験による研究

 斉藤和雄 会員(気象庁気象研究所)
 気象研究所の非静力学モデルについて、四国の「やまじ風」の研究事例などを例にお話頂きました。また、パソコンで動く数値予報モデルのデモンストレーションされたり非常に興味深い内容でした。また、ご紹介頂いた気象研究所のホームページには 、このほかにもさまざまな研究が紹介されています。

 

     2000年(H12)8月5日 第13回東京支部会合

<概要>
 第13回東京支部会合は、東京文化会館において、遠くは愛知県・静岡県からの参加者を含め35人の方に出席を頂き、盛況のうちに終えることができました。
<話題提供1>
首都圏における降水特性の経年変化
 〜集中豪雨は増えているか?

 佐藤尚毅 会員(東大気候システム)
 近年首都圏で、1時間雨量が50mmを超えるような集中豪雨が数多く観測されていることを背景に、降水特性に経年的変化が見られるのではないかとの見方がある。そこで、首都圏の夏期における降水特性についてアメダスのデータを用いて、経年変化を調べた。
 結果、8月の東京都内4ヶ所(世田谷・東京・新木場・羽田)の平均全降水量は年々変動が大きく経年変化は特に見られないが、全降水に占める毎時10mmを超える強い降水の割合は、1976〜86年に対し、1987〜97年は有意に増加が認められた。さらに、これらの地点では1990年代に入って毎時50mm超の激しい降水が多発する傾向が見られる。
 ところが、毎時10mmを超える強い降水が、前述の前半11年に対して後半11年で増えた地域を調べると、首都圏の、しかも東京23区から横浜にかけての狭い範囲に限られていることが分かった。
 この地域では、周辺地域との気温差の拡大や、海風の弱化・水平収束の発生が認められる。このことから、ヒートアイランドの強化によって上昇気流の局地的な活発化が生じ、これが集中豪雨の増加をもたらしているのではないかと考えられる。
 また、8月の降水や平均気温を曜日別に平均すると、降水量と気温の変動に似た傾向が検出されることから、ここからもヒートアイランドの強化が降水量に影響を与えている可能性が指摘できる。
<話題提供2>
台風経路の経年変化

 藤井 聡 会員
 台風の経路を8・9月について5年ごとにまとめると、時期ごとにその経路に変動、つまり経年変化があるように見える。
 1960年前後……日本付近に集中/鳥島東方海上はほとんど通過なし
  60年代後半…九州と本州東方海上に集中
  70年代………本土への接近が減少/南西諸島〜東シナ海が増加(多くはフィリピン方面へ)
  80年代………朝鮮半島が増加/四国・近畿・中国ほとんど通過なし
  80年代後半…鳥島近海が増加
  90年前後……九州が増加/南大東島東方海上は空白
 そこで、1951〜95年の8・9月の台風について、20゜〜46゜N、120゜〜150゜E の範囲を2゜のメッシュで区切り、5年毎の通過率を次の式で算出した。
 通過率(%)=(5年間の通過個数/5年間の発生数)× 100 結果、メッシュごとに通過率の経年変化が認められた。さらに、メッシュ間の相関係数を算出すると、九州と本州南方海上のように相関係数+0.748の正相関が認められる(九州を台風が通過することが多い時代には、本州南方海上も通過が多い)例がある一方で、東日本の太平洋側と東シナ海が-0.653の負相関(東日本の太平洋岸を台風が通過することが多い時代には、東シナ海を通過する台風は少なくなる)になる例も見出された。日本付近と東シナ海、本州東方海上とは台風の通過が逆相関であり、相補関係にある。
<話題提供3>
東京支部天気図検討会 〜最近の話題から〜

 八木健太郎 会員
 気象予報士会東京支部が開催している「天気図検討会」の案内、及び検討対象となった事例から、そのポイントを紹介した。

<実況図の作成>
 国際式天気図記入形式でデータの記入された、プロット図を使い実況図を作成する。留意点は
 ・誤データのチェック  ・前線位置の把握など
<予想図の作成>
 FXFE504(36時間後予想図)から地上予想図を作成する。高気圧、低気圧位置、示度は予想図をあえて変える必要はない。従って、ポイントとしては
 ・低気圧の閉塞の有無  ・前線の記入など

 個別には
 ・6月開催時の梅雨前線位置の把握
 ・5月、7月開催時は台風の温低化の予想 などが難しい事例であった。

 

     2000年(H12)10月7日 第14回東京支部会合

<話題提供1>
実験で学ぶ気象学

 木村龍治 会長(東京大学海洋研究所)
 はじめに、今回会合の会場になった東京大学海洋研究所についてスライドを使った簡単な説明があり、木村先生ご自身が地球大気の運動原理、メカニズム、システムについて興味があって研究を続けられてこられたとのお話があった。この中で、システムとか原理とか云うものは書かれたものを通して理解するのが一般的だが道具を使って理解する方法もあり、大気運動については道具を使ったほうがメカニズムを理解しやすいのではないのかとのお話があった。
 また、高校地学の教科書の執筆も担当されており、次回改定から使用される教科書の校正刷りを回覧され、文部省が定める指導要領の限られた範囲での教科書執筆のご苦労を話され、気象教育の必要性について強調されていた。
 続いて本題に入り、次の3項目について実験を通してのお話があった。

  1)地球の自転…………自転軸のまわりの回転と地面の回転
  2)高気圧と低気圧……高気圧の意味・高気圧は発散、低気圧は収束
  3)偏西風の蛇行

1)地球の自転〜自転軸のまわりの回転と地面の回転

 これは「コリオリの力」に関係するお話で、実験装置として先生が会場へ運び込まれたのは次のようなものであった。直径60cm、幅5cmのアクリル製リングを縦にして、最下部が鉛直軸のまわりに自由に回転できる台の上に固定してある。このリングがちょうど地球の子午線に相当する。また、リングの回転軸上、リングの内側に小さな地球儀を置く。さらに、リングの内面側に垂直に細い棒を取り付け、これを回転軸にする円盤を取り付ける。ただし、このとき円盤はリングの動きとは全く無関係に回転できるように、回転軸にベアリングを施す。また、回転軸の先に超小型ビデオカメラ(出力を電波で発信し、離れた場所においた小型受信機で受信
して、テレビの画面に映像を出すもの)を地球儀に向けるように取り付ける。なお、円盤の位置はリング上をスライドして変えることが出来るようにしてある。

 さて、円盤の位置を極、赤道、極と赤道の中間(このときは日本付近の緯度に相当する位置)にセットして、リングを1回転させたときの小型カメラの映像を見ることにする。なお、リングを1回転させることは、ちょうど地球が1回自転したことに相当する。
 円盤が極にあるとき、カメラは地球儀が1回転する様子を映し出した。円盤が赤道にあるとき、カメラはリングを回転させる前の地球儀を映し出したままだった。円盤が極と赤道の中間にあるとき、カメラは地球儀が回転する様子を映し出したが、地球儀が1回転することはなかった。

 この実験から地表面に垂直な軸のまわりの回転数が緯度によって変化することが分かる。それはすなわち、地球自転の効果が緯度により変わるということであり、地球の自転速度をΩ(オメガ)とすると、緯度φ(ファイ)の位置で Ωsinφ  となるという皆さんがお馴染みの関係が示される。

 【実験装置の略図】実験装置の側面図

              N
              *
             *    *
           *       * J
          *          *
         *           *
        *                      *  
       *      * *    C +  *
   ==> L  *      * E *   ==+--*- B
       *      * *     A+  *
               *           *          *
         *      *         *
                 *         *        *
                   *       *      *     E:地球儀
                        *  *  *       R:リング
              *                L:光源
              *                A:円盤(回転軸にベアリング)
             *****       C:カメラ
                      N・J・B:実験時の円盤の位置



2)高気圧と低気圧〜高気圧の意味/高気圧は発散・低気圧は収束

 ビーカーに水を入れて掻き回すと水面が真ん中で凹むが、ビーカーの底を地表面とすれば、中心部分で気圧が低くなっていて、ちょうど低気圧を再現したことになる。
 では、高気圧を再現するにはどうしたら良いか。

 水を入れたアクリル製の円筒状水槽を用意し、それをターンテーブルの上に置いて回転させれば高気圧を再現できる。(ここで実験装置が登場。水槽の中で再現された高気圧は、水槽の上から超小型ビデオカメラで撮影した映像を通して見ることにする)
 水槽の底に絵の具で印を付けてターンテーブル回転させると、初め水槽の水はターンテーブルの回転速度より遅く回転するため、水に溶ける絵の具の軌跡は水槽の壁に向かって進むが、ちょうどこの状態が高気圧を再現している。やがて、水槽の水はターンテーブルと同じ回転速度で回転するようになり、ちょうど無風状態を再現する。このとき、水面は真ん中で凹んでいるが、無風状態と云うことは水中の何処でも等圧であるから、地表面を考えたとき、それは水面の凹みと平行な面になり、それが実際の地球上ではジオイド面と呼ばれるものになる。

 このジオイド面を通してターンテーブルを回転させたときの水槽の水について考えたとき、水槽の水がターンテーブルの回転速度より遅く回転した場合、見かけ上、気圧が高くなっていることが分かる。そして、水面が水平な場合が高気圧の限界ということになり、高気圧性の回転が高気圧の限界を超えると、再び低気圧となる。これにより竜巻に低気圧性と高気圧性の循環が存在することが説明できる。

 ターンテーブルに載せた円筒状の水槽の水の中で絵の具が見せる軌跡は、大気境界層で実際に起きている現象で、高気圧性の場合は中心からの発散、低気圧性の場合は中心への収束を再現して見せてくれる。

 【実験装置の略図】ターンテーブルに載せた水槽を横から見ている

  *             *
  *-------------------------*
  *      水      *
  *   +       +  *   +:絵の具(水槽の底に適宜付けます)
  ***************************
  ============================= ターンテーブル
          *
                *****



3)偏西風の蛇行

 これは大気大循環を理解するための実験である。二重同心円状の仕切りを内側に取り付けた洗面器をターンテーブル上に置く。これで洗面器の中に3層の領域が出来るが、領域の一番外側に沸かした湯、二番目と一番内側の領域に水を入れる。そうすると二番目の領域には、壁面を通して水と湯からの温度差が生じることになる。それに銀粉を浮かべ、ターンテーブルを回す。しばらくすると二番目の領域に低気圧性と高気圧性の渦が交互に現われ、5波のロスビー波が現れた。

 大気大循環の流れを緯度線に沿って平均すると、赤道から極に向かって経度線に沿った鉛直面内に3つの閉じた循環に分かれ、赤道から順にそれぞれハドレー循環、フェレル循環(または間接循環)、極循環と呼ばれている。気象学の教科書などに図解されている大気大循環の図を見ると、ハドレー循環は熱対流による循環になっているが、フェレル循環は熱対流とは逆の循環を示す図になっており、対流では説明できない。これは、緯度線に平行に高気圧性の渦と低気圧性の渦が交互に並び、これが連続した偏西風の蛇行になっているが、この渦により熱が伝達され、それぞれの渦で生じる鉛直循環を緯度線に沿って、ぐるっと地球を一周するように平均すると、低緯度側で下降流、高緯度側で上昇流となって見えているのである。

 大気大循環の様式の一つにロスビー循環と呼ばれているものがあるが、ハドレー循環が鉛直面内の循環(子午面循環とも云う)で熱を運ぶのに対し、ロスビー循環は水平面の流れで熱を運ぶという違いがある。

 【実験装置の概略】ターンテーブルに載せた洗面器を上から見た図

                *    * 洗面器
              *        *
             *          *        壁面1と壁面2の間(A)に
            *     *  * 1   *       温度差が出来る
            *   *      *    *
            *   *   ** 2 *     *
                      * 湯  * 水*水*A *     *
                      *     *    **    *     *
                       *     *        *     *
                        *       *  *       *
                          *              *
                            *          *
                               *    *
 
<話題提供2>
高層天気図(客観解析)の再解析

 東 修造 会員
 この話題について事前に配布された資料は以下のとおりで、会合参加者各自が天気図(下記のリストで◎印を付けたもの。以下、特に断らない限り「天気図」とはこれを指す)の温度場について再解析作業を行うことになった。

−配布資料(天気図6枚)−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ●地上天気図(ASAS)      /2000年07月28日09時(日本時間、以下同じ)
 ◎850hPa面の高層天気図(AUPQ78)/2000年07月28日09時
 ●     〃         /2000年07月27日21時
 ●850hPa面の気温・風及び700hPa面の鉛直P速度解析図(AXFE578の下図)
                /2000年07月28日09時
 ●気象衛星雲解析図(TSFE1)   /2000年07月28日09時
 ●    〃          /2000年07月27日21時
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 この天気図で東さんが再解析すべきと指摘された点は、中国東北区の低気圧に伴う等温線、日本付近の18℃の等温線、カムチャツカ半島の南の低気圧に伴う12℃の等温線の3つで、このうち日本付近の18℃の等温線については、地上天気図で三陸沖に解析された低気圧との関連で、日本付近の寒気と暖気の分布を正確に把握するための詳細解析(再解析)が必要とのご指摘があった(天気図では3℃毎に等温線が解析されているが、1℃毎に解析する必要もあります)。

 以下、東さんのお話の要点。

 気象庁の電計予想結果は当たる確率が高く、そのまま使ってもそこそこに天気予報は当たるが、民間気象会社の場合は、高い予測精度が求められる。例えば、気温予測などでは850hPaの気温予測値を利用するが、この予測値が外れていれば、それを利用した気温予測は当たらない。そのため、予測に使う予測値に信頼性があるかどうか、その初期値を詳細に検討する必要がある。

 気象FAX図として配信される解析図や予想図は、数値予報における格子点の値をスムージングしており、そこに解析された等高度線や等温線などをそのまま読み取ってしまうと、本来の実況とは違ったイメージとして捉えることにもつながりかねない。
 将来を予測するのであるから、過去から現在を正しく把握しておく必要があり、他の資料などを使って天気図を矛盾無く再解析し、予報の出発点となる主観的な解析図を用意しておく必要がある。解析図に矛盾があれば、予想図を作成したときにも矛盾があるはずで、したがって、初期値に問題があると判れば、予想図を修正することも出来る。
 予想図を修正することは、いろいろと問題があるが、少なくとも解析図を十分に吟味しておけば、予想図の問題点を把握できる。このような手順を踏んで行かなければ、良い天気予報は出せないであろう。天気図検討会で参加者に良く話すことだが、「予想図は最後、解析図の読み取りに時間を掛けなさい」という意味は、こんなところにある。

 

     2000年(H12)11月3日 気象大学校学園祭「紫雲祭」見学会

<概要>
 11月3日金曜日・祝日の午後1時05分に柏駅中央口改札前に集合。17名が集まって気象大学校へ移動開始。
例年参加されている東京支部の松澤さんに先導をお願いしました。20分ばかりで気象大学校へ到着。受付で名前だけを書く。会場に直行していた方とも顔を合わせる。
 さて予定をみると、おや本日の「柏気象台見学ツアー」は12時の一回だけで、断念せざるを得ず。一方お目当ての小倉義光先生の講演「集中豪雨」は2時間の枠がとってある。

 午後3時から講演を拝聴、約 100席ある椅子は満席で立ち見もある大盛況。メイン行事であるこの講演会には気象予報士会関係者?だけで、およそ30名は参加していた模様。1998年の高知県、新潟県、栃木県北部〜福島県南部に襲来した「集中豪雨」3つの事例を中心に話を進められる。予測モデルの可能性にも話題が及ぶ。講演後質問多数。

 講演終了後なんと小倉先生のサイン会が催される。(長蛇の列!)小倉先生の著書を持参しなかった自分などはほぞを噛む。
 午後5時まで大学祭の「集中豪雨」と「特異日」の企画展示があり見学し、冊子を受け取る。その他毎年恒例?の低温実験室、流体実験室の見学を行い、一部で異様に盛り上がる。

 午後5時半ころから、柏駅近くの(例年恒例の)居酒屋で懇親会。18名参加。

 今回の「紫雲祭見学会」には初顔合わせの方、初めて予報士会の行事に参加された方もあり有意義でした。
地域的には関東一円と静岡県からも参加者がありました。

 気象大は1学年20人という学生数の割には、非常に広い構内、そして紫雲祭はそんな少ない人数の中でかなり充実した大学祭であるとの感想を持ちました。毎年見に行かれる方の気持ちがわかりました?

 

     2000年(H12)12月2日 第15回東京支部会合

<話題提供1>
東京地方の酷暑日発生時における地域的・気象的特性について

 加納良真 会員
 まず、表題にある「酷暑日」という用語であるが、ここでは日最高気温が35℃以上の日と定義している。この用語はすでにある報道機関の天気予報番組で登場しているようだが、真夏日や夏日のような気象統計上の
正式な気象用語ではない。しかし、日最高気温が35℃以上になると、熱射病で倒れた人を救急搬送するケースが増えるといった事例もあるようで、今後この用語が広く認知されるかもしれない。

 今回は東京地方における酷暑日の発生状況について、平成6年から今年にかけての夏季(6月〜9月)におけるアメダスや天気図などのデータを使用して分析され、酷暑日発現の地域的な特性や発現時の気圧配置などに見られる特徴などを整理された結果を報告して頂いた。

 以下、加納さんが当日用意された資料をもとに報告された内容を簡単にまとめる。

1−1.地域的特性
 東京都内のアメダス気温データ(平成6年〜本年)から以下の特徴が見られる。

  (1)23区では練馬、多摩地区では八王子が、酷暑日の発生頻度が高い
  (2)逆に、23区の海沿いに位置する新木場、羽田では、酷暑日の発生

     ※頻度は低く、特に新木場では平成6年8月3日、平成8年8月15日、平成9年7月5日にアメ
      ダスで最高気温が35℃以上を観測したこの3日以外は、酷暑日は皆無である。

  (3)日中東京湾沿岸部に南〜南東風(海風)が卓越する時には、23区の東京、羽田、新木場では酷暑日     
     にはなりにくい。

      ※参考までに、23区の東京では海風卓越の時、9時の気温+2℃=最高気温)

  (4)東京地方で広範囲に(23区の東京まで)酷暑日が発生する時には、関東平野一円や近県の山梨県大
     月地区や甲府盆地、富士側沿い、それに静岡県静岡市や清水市周辺にわたる広範囲で酷暑日を観測
     している。


1−2.気圧配置特性
 地上天気図から日本付近の気圧配置に以下の特徴が見られた。

  (1)関東平野から見て、関東地方西部に位置する関東山地の山越え気流が入り込むような気圧配置時
     (このような時には関東平野の地表付近の風向が南西〜北西の風が卓越)に酷暑日が発生しやすい 

      ※山越え気流の一つの目安として、伊豆半島の付け根に位置する網代の風に注目。ここでの西寄
       りの風5m/s以上。

  (2)本州南海上が高気圧に覆われて、等圧線走向が関東地方で東西方向や北西〜南東方向となっている
     場合に酷暑日が発生している。特に、当日9時現在の東京と大阪の気圧値を比べると、
      (大阪の気圧値)>(東京の気圧値)
     であれば、酷暑日となる地域は広範囲となる。

      ※西日本の方が気圧が高い→ High Cellが解析できる場合が多い

 具体的な事例として、平成12年7月23日(以下、事例Aとする)と平成12年9月2日(以下、事例Bとする)の2事例について、アメダスデータや天気図(ASAS・AXFE578) などの資料を使った説明があった。

 ○日最高気温
         東京大手町  八王子市  酷暑日の発生状況
     事例A   34.9℃   38.3℃     内陸止り
     事例B   37.8℃      38.1℃    広範囲に観測

 ○気圧配置
     事例A 寒冷低気圧が沿海洲に、太平洋高気圧が本州南海上に張り出す南高北低型。 1004hPaが本
         州南岸から九州北部にかけて東西に走る
     事例B 低気圧が北海道の西海上に、寒冷前線が日本海沿岸に伸び、太平洋高気圧は本州の南海上
         から西日本、朝鮮半島を覆う。 1008hPaが房総半島から米子付近を走る。

 ○気圧配置(500hPaの5880m等高度線)
     事例A 日本の東
     事例B 西日本から東シナ海を広く覆う

 事例A、Bともに気圧配置については1−2.(1)の条件に合致しているが、東京湾では事例Aが南風、事例Bが南西風だった。また、850hPa面で関東地方は21℃の等温線で囲まれ、地上での高温に対応している。ただし、風を見ると、

          西日本      関東地方      要 因
     事例A 西寄りの風  南南西〜南西の風  暖気移流の要素が大きい
     事例B 西寄りの風  南西〜西南西の風  フェーン現象


1−3.気象実況値特性
 東京地方で酷暑日が観測された日について、当日の日照時間と館野の9時における実況について調べた結果、以下の特徴が見られた。
 酷暑日当日の日照時間は、8〜16時の間で、東京(気象庁)は5時間以上、八王子は2時間以上が必要。特に、東京(気象庁)では8〜12時の間の日照時間が、1時間あたり平均30分以上観測していること。

 その上で、
  (1)館野850hPa気温が18℃以上で、700hPa風向と850hPa風向との平均値(これは、風向値(0〜360度)
     の算術平均のこと)が 210度以上になると、多摩地域や23区の練馬で酷暑日が発生しやすくなる。
  (2)館野850hPa気温が21℃以上で、700hPa風向と850hPa風向との平均値が 260度以上になると、23区の
     東京まで酷暑日となる。
  (3)700hPa風向と850hPa風向との平均値が 220度以下
       八王子最高気温−東京最高気温≧ 2.5℃(この場合は東京湾沿岸部で海風が卓越している)

     700hPa風向と850hPa風向との平均値が 220〜 280度
       八王子最高気温−東京最高気温≦ 2.5℃

     700hPa風向と850hPa風向との平均値が 280度以上
       八王子最高気温−東京最高気温=ほとんど差がなし
        または
       八王子最高気温<東京最高気温

 特に上記(2)のケースの場合は、関東山地の山越え気流+本州中部山岳の山越え気流によるフェーン現象が、関東平野一円及び1−1.(4)で述べた地域にわたる広範囲での酷暑日の出現に関係していると考えた方がよさそうである。
<話題提供2>
非静力学モデルによる気象研究所での雲解像シミュレーション

 斉藤和雄 会員(気象庁気象研究所)
 斉藤さんには、第12回東京支部会合(平成12年6月10日開催)での「気象研究所非静力学モデルと数値実験による研究」と題するお話の続編として、「気象研究所/数値予報課非静力学モデル」についてシミュレーション画像を交えながらお話して頂きました。

 今回お話して頂いた内容に関する研究報告やシミュレーション画像などは、気象研究所のホーム・ページでご覧頂けます。

 MRI/NPD−NHMのホームページ:
   http://www.mri-jma.go.jp/Dep/fo/mrinpd/INDEXJ.htm

 今回お話の中で見せて頂いたシミュレーション画像は、日本海ポーラーローと冬型気圧配置時の寒気の吹き出しに伴う雲についてのものでした。ポーラーローについては北海道西方海上でスパイラル型の雲を伴う渦が
組織化して南下する様子が再現されていました。また、寒気の吹き出しによる雲については、シミュレーションの結果が気象衛星雲写真(可視画像)を見せられていると錯覚するほどのものでした。計算結果を細かく見れば、分解能不足などのため、済洲島や屋久島の風下側に出来るカルマン渦が再現されていないなど、まだ改善すべき点はありますが、個々の雲を表現することが出来るレベルに手が届きつつあるという点は、注目していいところです。

 この他、雲解像シミュレーションの例として、「MCTEX で観測された熱帯島嶼上の日変化性対流シミュレーション」という研究報告例についても説明がありました。 MCTEX(海洋性大陸雷雨観測実験)は1995年に豪州
北部準州TIWI諸島で行われた国際共同観測で、シミュレーションでは、島で発生する対流の日変化(海風前線の出現と内側でのレーリー・ベナール対流による雲の発生、発生した対流雲が島の中央の線状収束域で深い対流に組織化される様子など)が再現されているとのことでした。

 その後、印象に残った質疑応答がありましたのでご紹介します。それは「今日お話頂いたことの、どういった点がすごいのでしょうか。」という質問に対して、斉藤さんは一瞬とまどいながらも、「例えば大雨情報
が市町村単位でリードタイムを持って発表できるようになれば、非常に有効な防災情報となるだろう。このようなことを可能にするには、観測、モデル、データ同化の3つが揃う必要があり、予報可能性など本質的な問題もあるが、少なくとも個々の雲の挙動を表現するモデルはその必要条件の一つであり、そのための開発を行っている。」と答えられました。
<話題提供3>
速報・11月20〜21日に発生した沿岸前線とそのイタズラ

 渡辺保之 会員
 表題中の「沿岸前線」について馴染みの無い人もおられると思いますので、既にこれを話題に取り上げました千葉県気象予報士会の会合で頂いた資料を引用、加筆しましたものを本報告の最後に付けましたので参考にしてください。

 今回「沿岸前線」の事例について報告して頂いた渡辺さんは、前記の会合に参加されていて、「この日の状況はもしかすると沿岸前線の仕業では?」とピンときたそうで、帰宅後アメダスデータなどを気象関連のホームページでダウンロードし、それが正しく沿岸前線だったことを確認したとの事です。

 その日の概況ですが、前線を伴った発達中の低気圧が対馬海峡から北海道へ進み、関東地方は日本の東海上へ抜けた移動性高気圧に覆われていました。しかし、東京地方は朝から冷たい北寄りの風が吹いて、弱い雨が降っており、移動性高気圧の後面では南寄りの風なのでは?と思いたい状況でした。

 沿岸前線は20日12〜13時に房総半島の太平洋沿岸に上陸し、21日0〜1時には神奈川県全域・多摩東部・東京23区・千葉県全域・茨城県太平洋側が沿岸前線の南東側(暖域側)に入り、その後は関東平野を南下してきた寒冷前線に吸収されるように再び太平洋へ抜け去りました。沿岸前線の通過時には、風向が北寄りの微風から南〜南西の強風に急変し、1時間で10℃前後の気温上昇が見られました。また、この前線を挟んで僅か
10kmほどしか離れていないアメダス観測点間で、10℃以上の気温差が認められるなど、極めてシャープな構造が見られるのも特徴でした。

 その辺の様子を気象関連のホームページからダウンロードされた資料を基に作成した気温分布図や流線図を時系列的に示しながらお話して頂きました。

 21日未明に東京地方では雷を伴う強い雨が降りましたが、これも沿岸前線が関係していると思われます。
一方、沿岸前線は水平距離で100〜200km内陸まで入り込みますが、前線面の高さは数百mの高さしかないとされています。その辺のところをアメダス・データで見てみると、標高の高い栃木・群馬両県のアメダスや筑波山のアメダスの風向はいずれも南寄りになっており、この時の他の観測点(ただし、沿岸前線の北側)では北寄りであることから、沿岸前線特有の構造を見ることが出来ます。

 千葉県気象予報士会会合での講演から今回の東京支部での事例報告へと続き、正にタイムリーな話題提供だったと思います。なお、気象研究所のホームページでも沿岸前線についての研究報告をご覧になれます。


 【沿岸前線が房総半島へ上陸した頃(20日13時)のイメージ図】

 ○東京(気象庁)では北風5m/s、気温8℃、天気は雨。
  千葉県勝浦では  南風7m/s、気温20℃。
  筑波山では    南風6m/s

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 ←←←←←←←←←←←←←← 日本海の低気圧へ向かう暖気 ←←←←←←
 ←←←←← 越後山脈 ←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←
 ←←←←←←← + ←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←
 ←←←←←←← +++ ←←←←←←←←←←←←←←【暖気】←←←←←←←
 ←←←←←← +++++ 日光地方 ←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←
 ←←←←←← +++++++ + ←←← 筑波山 ←←←←←←←←←←←←←←
 ←←←←← +++++++++ +++ ←←← + ←←←←←←←←←←←←←←←←
 ←←←←← ++++++++++++++oooooooooo+++ooooooooooooooooo ←←←←←←←
 ←←←← +++++++++++++++++++ +++++ 【寒気】→→→8←←←←←←←
 日本海 ++++++++++++++++++++++++++++++++++ →→東京→→8 勝浦・銚子←
 ----+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++\++---++8+\+---太平洋
 -+++++++++++++++++++++++++++++++ 関東平野 +++++++++-+++++++++++-----
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                           8: Coastral Front

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【参考資料】沿岸前線について

1.沿岸前線とは
 これは局地前線の一種で、シノプティック・スケールの前線の1/10。

2.用語と研究成果
 原語は「Coastral Front」。1970年代にこれが米国ニューイングランドで良く発生するため、一般気象観測(地上・高層観測)の他に航空機なども動員して大掛かりな気象観測が実施されると共に現象解明の研究が盛んに行われた。1990年前後に、日本における類似現象について藤部氏(気象庁気象研究所)が考証。この直後から、気象庁の予報技術検討会が「沿岸前線」として調査。これは予報現場に定着したが、まだ「気象の事典」等には掲載されておらず、広く一般に周知されてはいない。
 日本において「沿岸前線」が発生していると考えられる地域は次の4個所。関東地方南部(房総半島など)、東海地方(紀伊半島まで)、四国の太平洋側、九州南東部(宮崎県を中心に)。この4個所を繋いでみるとその距離はちょうど米国で盛んに研究されたニューイングランドに発現する前線の長さに匹敵する。

3.発生機構
 1)地 形=北西に山脈のある沿岸部に発生する。
 2)総観場=移動性高気圧の南西象限で発生する。
 3)構 造=海からの湿潤南東気流が、沿岸・内陸の冷気層に重なる。

 冷気層は高さ数百メートル以下、長さ数百キロメートル。前線幅は数百〜数千メートル、気温差10℃前後に及ぶ。沿岸前線のトリガーは移動性高気圧なので、その発生は秋から春にかけて。特に、春と秋に多い。地上天気図における前線解析で、しばしば本州南岸沿いに解析された温暖前線を見かけることがあるが、それは沿岸前線であることが多い。

4.影響
 1)北側冷気層内に、大気汚染物質が滞留し、汚染濃度が高くなる。
 2)北側冷気層内では視程が悪化し、航空機・船舶・車の通行に支障。
 3)沿岸前線を横切る航空機は、乱気流やウィンド・シアーに遭遇する。
 4)南東気流の層状雲により、近付く低気圧の雨域と別の先行降雨。
 5)南東気流が対流不安定な場合、警報級の大雨を降らせる。
 6)沿岸前線が雨雪の境界になることがある。冷気側は着雪の場合も。

 沿岸前線の北側30〜50kmでは大雨になっても、その南側では雨はほとんど降らず、前線通過の前後で天候はシャープに変化するのが特徴。そのシャープに変化する様子は気温の急激な低下、風向の急変、視程の悪化などに見られる。

5.予測の着目点(関東)
 1)移動性高気圧が三陸沖へ進む。
 2)数値予報図(RSM)沿岸部の風向差・低圧部・降水帯
 3)確認=アメダスの風と気温(銚子・勝浦・大島・筑波山)

 筑波山は沿岸前線より高い場所にあるので、沿岸沖合いに沿岸前線がある場合の確認ポイントとして有効。
(つまり、地上では北〜北東風で低温なのに山頂では南東風、高温。)
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注)上記資料は、千葉県気象予報士会の会合(平成12年10月28日)で、岩瀬松治(ウェザーニューズ社)様が
  講演された「沿岸前線」の資料−講演「沿岸前線」要項−を引用し、加筆したものです。

 

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