長利研 第28回例会「気象と音楽」
期  日 2010年6月13日(日)
場  所 東京芸術劇場(池袋) 小会議室5

「気候変動とクラシック音楽の変遷」  by田家会員のプレゼン資料より

内  容 田家康会員の司会により、音楽を演奏しながら気候変化について語った。

バロック
 初期バロック(1600年頃〜1650年頃):クライディオ・モンテヴェルディ
 中期バロック(1650年頃〜1700年頃):クープラン、スカルラティ
 後期バロック(1700年頃〜1750年頃):ヴィヴァルディ、バッハ
古典派
 1730年頃〜1810年代:ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン
ロマン派
 初期ロマン派(1815年頃〜1850年頃):シューベルト、ショパン、グノー
 後期ロマン派(1850年頃〜1910年頃):リスト、ワーグナー、ビゼー
近代
 無調音楽:シェーンベルク、マスカーニ
 印象主義:ドビュッシー、ラヴェル
 原始主義:ストラヴィンスキー

太陽黒点数の変遷と クラシック音楽

1600年以降、400年間の太陽黒点数(年平均)の推移を表わしたものです。近年はいわゆる11年周期ですが、16世紀半ばから17世紀初め、1800年を挟む時代に太陽黒点数が減少(前者ではほとんどない)していることがわかります。これがマウンダー極小期とダントン極小期と呼ばれる時代に相当します。

古い時代ゆえ記録の欠如ではないか、あるいは観測技術が劣っていたのでは、疑念があるでしょう。Jack Eddyは慎重に調べました。結果は、1675年に初代グリニッジ天文台長となったジョン・フラムスティードですら一個の黒点するまで7年間も観測を続けたと記録を残しています。 一所懸命探しながら、ようやく見つかった・・・ということです。

次のページで紹介しますが、17世紀から黒点観測は活発にされていました。また1645〜1715年にかけて皆既日食は63回生じたが、誰一人としてコロナを見たと報告していない。コロナは太陽活動が活発な時は円周すべてのダリアの花びらのように伸びるが、太陽活動が低調だとせいぜい赤道付近に2〜3本が見つかる程度。


マウンダー極小期の間、太陽コロナは事実上消えていたのではないか。

イングランド中央部の気温推移

バロック音楽の時代



ペンシルヴェニア州立大学教授のハンス・ニューバーガー(ドイツ語読みではノイバーガー?)は1970年に米国と欧州9カ国17都市にある41の美術館に集められている1284枚以上の絵画を見て、背景などに描かれた天候を分析しました。図は青空(快晴といっていいでしょうか)、視界良好、積雲がある、曇り、暗いと5つのカテゴリーです。1400〜1549年、小氷期直前かその当初が左の白抜き、1550年〜1849年が小氷期で斜線、1850年以降が現代で点描となっています。これを見ると、小氷期から積雲の描写や曇りの気候が描かれる比率が大幅に増加したことがわかります。

マウンダー極小期とほぼ一致
教会音楽、室内楽が中心
北ドイツ・オルガン学派
フランスでは宮廷バレエ
英国ではリュート音楽
オペラもあったが、イタリアのみ
こうした傾向は絵画でもみられる
小氷期の絵画は曇天、黒い背景の比率が高い
後期バロックはマウンダー極小期からの回復期
ヨハン・セバスティアン・バッハ

Johan Sebastian Bach
“Inventions and Symphonia #1”

荒川 知子 (Vla)
井上 葉子 (Fl)
池辺 裕香 (Pf)

古典派の時代

マウンダー極小期とダルトン極小期のはざま
暖かい年も多かった。
平均律を縦横に用いた楽曲
ヘンデル、モーツァルト
一方で10年単位の気候変動も大きかった。
干ばつの翌年に夏の雹が降るとの極端現象がフランス革命の契機
後年、ナポレオンが登場⇒ベートーヴェン:交響曲第三番《英雄》

ロマン派前期の時代

ダルトン極小期に突入
火山噴火の激増
1782年:ラーキ山(フランクリンが火山噴火の寒冷化との仮説)
1816年:タンボラ火山で「夏の来なかった年」
エルニーニョ現象の顕著化
1812年のナポレオンのロシア遠征の挫折はエルニーニョの年だった
ピアノ演奏会が大好評
ベルリオーズ、メンデルスゾーン、ショパン
葬り去られていたバッハの復活
ショパン


Frederic Francois Chopin
“子犬のワルツ” 前奏曲15番“雨だれ”
池辺 裕香 (Pf)

Johan Sebastian Bach Charles Francois Gounod
“Ave Maria”
荒川 知子 (So)
井上 葉子 (Fl)
藤井 聡 (Pf)

ロマン派後期の時代

1850年頃に大規模火山噴火おさまる
小氷期の終わり
フランスのシャモニーでは、1855年頃から氷河後退
イングランドで1868年夏に30℃を超える日が続いた
米国西海岸では、1850年代半ばは1930年〜1960年よりも平均気温が1〜1.5℃高かった。
大がかりなドイツ・ロマン主義
ヨハネス・ブラームスの絶対音楽
リヒャルト・ワーグナーの楽劇
フランスでは、超絶技法流行る
ジョルジュ・ビゼー、サン=サーンス
これは1800年以降のシャモニーの氷河の前進と後退を図示したものです。

左端に1815年の「夏が来なかった年」を中心に氷河の前進が見られますが、緩やかに氷河の領域が縮小し、1870年代から一気に違うステージに変わったことがわかります。

近代音楽・現代音楽の時代

19世紀末から20世紀初頭は寒冷傾向だった
ヨーロッパでは、「世紀末」とよばれる芸術運動
1897年〜1901年にかけて、巨大なエルニーニョ現象が発生し、ヨーロッパを除く全世界に影響
クラシック音楽の多様化
無調音楽:シェーンベルク、マスカーニ
印象主義:ドビュッシー、モーリス・ラヴェル
原始主義:ストラヴィンスキー
平均律への疑問と無調化
  ⇒そして、わけがわからなくなる・・・

Joseph-Maurice Ravel
“Pavane pour une infante defunte”

田家 康 (Cl)
池辺 裕香 (Pf)

Pietro Mascagni
“Cavalleria Rusticana”

荒川 知子 (Vla)
池辺 裕香 (Pf)