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「富士山頂実験室」の基本的な考え方。

富士山頂実験室の事業を企画するに当たり、概要と内容を紹介します。

A prologue to the Fuji-project.

1.概要 私たちの身を包み、家を包み、街を覆い、地球を包んでいる「空気」というものの存在をより 良く知るためにはどうすればよいか。この命題のソリューションを得るプロセスに子供たちに 参加してもらい、同時的に彼らに「科学」の世界への門を開くきっかけにして欲しい、と考える。 このため、空気に関する講義や実験を通して、体験し、体感し、そして現象を検討することが 大事である。本企画は、このための実験の器材と、実験室としての富士山と、通信手段としての インターネットをインフラとして提供し、地上での出前講座と富士山頂上での実験を同時並行し て実施し、リアルタイムで通信回線を介して双方向での講義や実験の様子を送受信し、質疑応答 しながら講座を進行する。   このプロジェクトの発端は、「富士山で実験する」として、2011年1月、川崎市市民活動センター にて発表したしたものである。地上では当たり前の実験が場所を変えるとどういう現象となるか。 特に、富士山という高所においては如何になるであろうか、その素朴な疑問と問題意識を持って スタートしたものである。自分一人では、富士山の頂上の実験と地上での実験を同時的に比較は できない。自分が頂上で実験するときは、地上に仲間が最低限一人必要だ。子供たち向けの出前 講座としても、よさそうだ。こんな考え方でスタートした。 2.内容 (1) 企画の全体構想 @ 目的 本企画は、子供たちに、「空気」というものの存在をより良く知るためにはどうすればよいか、と 言う命題のソリューションを得るプロセスで、彼らに「科学」の世界への門を開くきっかけをつか んでもらうこと、を目的とする。 「空気」は、私たちの呼吸のために必須のものであるし、産業・社会・経済等の活動の欠くべから ざる「資源」でもある。この「空気のような存在」とまで言われるほどの「空気」を、もっとよく 知りたい、特に空気の存在をいかにして知るか、ということは私ども気象予報士にとっては、重要 な問題である。空気は目に見えないので、その存在が分かりにくい。風や雲等の自然界に生起する 気象現象によって、体感したり、見たりして、空気の存在を間接的に知るに至る。あるいは、実験 室の中で、論理をベースとして、風や雲をつくりだして、仮想の、擬似的な、或いはミニチュアと して見ることができる。学校教育等では通常理科の授業の中で、教科書を通して、「座学」で、 「知識」として与えられ、教えられる。 話は、突然変わるが、私の住む市の教育委員会の指導主事さんいわく、「子供たちにとって魅力 あるのは、教科書に書いてある同じことを先生が言うよりも、外から来た講師の実体験の話のほう が、はるかによく聞いてくれるものだ」と。このことの持つ意味は、「毎日同じ調子で提供される 情報か」、「生き生きした新鮮な感じのする情報か」の質の違いである。さらには、人の一生に おいて滅多にないことではあるが、体中で感動すること、そう言う体験は、頭脳でなく、体が覚え てしまうものだ。これら情報の質と、体が覚える感動の2つを同時的に満足させるプレゼンテー ションの方策として、上述した概要の「富士山」を使う以下のアイデアに到達した。 即ち、実験の器材と、実験室としての富士山と、通信手段としてのインターネットをインフラとし て提供し、地上での出前講座と富士山頂上での実験を同時並行して実施し、リアルタイムで通信回 線を介して双方向での講義や実験の様子を送受信し、質疑応答しながら講座を進行する、のである。 即ち、子供に見ていただくもの、触っていただくものは、講師が制作し、演出し、プレゼンテーシ ョンする。「もの=コンテンツ」としての「出し物」は、「大道具」、「小道具」、「役者」から 構成される。 大道具には富士山を、小道具には実験項目を、役者には音声と画像を充てる。こうした考え方で 出来たのが、「富士山を使ったインターネットによるリアルタイムの、頂上・地上同時進行形の 講座の開催」である。 ここで、「何故、富士山か」の疑問に答えねばならない。富士山は、「低圧実験室」を無料で提供 してくれる場であるからです。そして、富士山を、「宇宙衛星、南極、エベレスト」に置き換えて みよう。子供たちにとって、いや大人たちにとっても到達不可能であり、しかしながら未知の存在 であり、場所でもある。富士山は、これら3者ほどのように遠方にあるわけではなく、もっと身近 に存在する、しかしその頂点に立つには、厳しい登山を強いられる。子供たちには、すぐそこに見 えていても、行くことが困難な場所である。未知の場所である。そのような場所である富士山を講 座の背景に大道具として据え付けると、舞台効果として全体を引き締め、また役者の言動を引き立 たせてくれる、と考えます。 A 目標 この企画による事業は、前半・後半の2つに分けて行う。 前半は、7〜8月、富士山頂と地上会場とをインターネットで結ぶ実験を、3箇所予定する。 自然空間の中での実験を主体とする。様々な予期しない問題が出ると想定される。 対象者は、子供・大人をいれて合計80人程度を予定する。 後半は、9〜12月に、毎月1回、合計4回、地上会場のみで、昨年以前からおこなっている 形態の地上での出前講座を実施する。従来と異なる部分は、前半の7〜8月の夏の富士山実験の実績 と経験を子供たちに伝え・展開する場とする。富士山と異なり、地上においては実験を行い易い理由 を考え、そこにいかなる自然の力が働いていたかを考える場とする。夏の実験で困難であったとこ ろやできなかった実験を行うことを含め、原因を考え、検討する。対象者は、合計90人程度を予定 する。 なお、2012年は、カバーする地域を特に2011年の震災地を必ず含み、対象人数を若干増やし、 ほぼ同様の形態で実施し、結果を報告できれば、と考える。 B 期待される効果 この企画は、子供たちの「感動」と「科学への意識の活性化」の2つを効果として期待する。 この企画は、富士山山頂を実験の場とする、と言うこれまでにない企画である。富士山山頂という 世界は、子供達にとっては、「宇宙衛星、南極、エベレスト」にも匹敵するくらい「遠くてしかも未知」 の世界である。この未知の世界を紹介しつつ、また富士山を背景としつつ、そこでの気象現象と、 地上での同じ現象の相違を、自ら行う実験で体感し、見極め、自然の力の不思議さと偉大さを、感じ 取ってもらいたい。 ここで後者の宇宙等の3者からの実況中継は、本企画の1000倍以上の費用を必要とするかもしれ ない。しかしながら、効果はいずれも同じ程度と考えられ、従って費用対効果は、本企画がかなり良い のではないか、と考えられる。期待する効果は、実況の特徴であるところの「次にどうなるか」が、 その時次第の未知のものであり、従って、「結果が出ることへの期待と不安感」が生じ、結果が出た 時に、子供たちの体 ぜんたいに、感動の心が湧き上がってくること。講師としては、この状態を 期待される効果の一つとしたい。 もう一つは、この未知の世界を紹介しつつ、そこでの気象現象と、地上での同じ実験により表出 される現象の相違を講師とともに考えることを通して、いつもは当たり前に存在している自然界 の空気の力や密度の違いが、教室の実験室でなく、自然空間そのものを実験室として使う。 その自然空間を活用しての実験で、現象として表出される様子を見ながら、その理由を科学の 観点から、「なぜだろう」という疑問を抱かせるきっかけを与えやすくなるものと考えられる。 それは、当たり前の、いつもの環境とは異なる、しいかも「富士山」と言う「場」に観客であり 且つ又主人公である子供たちが置かれ、感動の中に神経が活性化され、そして、科学への意識が 活性化され、科学の世界への入口点に立つ。 その入口点にたった子供を引き上げる(独語の「教育の意味」“aufziehen”する)のである。 富士山からの実験はこんなきっかけを提供してくれる効果があると期待します。 以上、この企画を通して、子供たちには、「感動」と「科学への意識の活性化」の2つを期待します。 (2)企画の特徴 この企画は以下の特徴を有し、子供たちに「非日常」の実験空間を与えることができる。 ・気象実験クラブが普段行っている実験を行うが、この時、富士山そのものを実験室として活用する。 ・この富士山山頂という実験室は、子供達にとっては、「宇宙衛星、南極、エベレスト」にも  匹敵するくらい「遠くてしかも未知」の存在である。 ・この富士山頂上と地上の出前講座開催会場をインターネットで結び、地上と富士山頂の双方で、  実験の様子を互いに撮影し、画像をインターネット経由互いに他方へ送信する。 ・送られてくる画像を、リアルタイムで、双方において見ながら、音声で以って、評価し、確認し、  質問し、応答する。 ・地上には2箇所の会場を設け、地上の会場同士でも遠隔交信できるようにする。  即ち、「富士山頂上+地上会場1+地上会場2」の3地点を、インターネットでむすぶ。 ・実験で扱う素材は、水と空気である。電気や化学的薬品は使用しない。至極安全である。 ・この実験を企画し、運営し、実験実施する担当者は、国家資格を有する気象予報士である。
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